高校1年、閂とざすの話

閂とざすはクラスでも大して目立たない女だった。
「ああ、そういえば居たね。そんな子」
「あの端の席でよく本読んでる」
「閂(かんぬき)さん?変わった苗字だよね。それ以上は知らないけど」
その程度の女だった。
成績は平均点、身長は高くも低くも無く、無口で無愛想。
特筆して仲良しな相手は居ないし、虐められたりもしていない。
だから印象に残る事が無い。

閂とざすわたしは今年から一人暮らしで、葉っぱ荘に住むことにしてた。
家賃は15000円、築82年、学園までの距離はルートによっては短い。
割り当てられた204号室の部屋の中には大した物も置いていない。
一人で上手くやっていく、そのつもりだった。
でもいくら退魔師の仕事があるからといって一人で生きていくのは大層苦しくて。

成績は平均点まで落ちた、多分、来年は平均点以下になる。
数学なんてあと2点で平均点を割るところだった。授業中にちゃんと聞いていたはずなのに。
中学の頃はちゃんとできてたことがどんどんできなくなっていく。
このままじゃダメ。

体重が1キロ増えた、気を使った食事を取ろうと思ったけど難しかった。
健康的な食事や運動習慣は生活に余裕があるから得られるものだった。
一人で四苦八苦して生活をしているうちは栄養バランスまで気は回らない。
このままじゃダメ。

新しいクラスに馴染むのが難しかった。
最初の数日を逃したら、もう皆仲良くしてるみたいでどうしてもその間に割って入れなかった。
私、そういうキャラじゃなかったし、中学まではこれまでの積み重ねでどうにかなってたのに。
このままじゃダメ。

通学中に髪留めを落とした。気に入ってたのに。
授業中に居眠りしてしまった。そんな事するためにこの学校に来たわけじゃないのに。
靴の留め具が壊れた。こういう時どうしたらいいの。
料理の時に指を切った。普段はそんな事ないのに。
このままじゃダメ。このままじゃダメ。このままじゃダメ。このままじゃダメ。

だから鍵丸に話したの。
私の代わりにもっと上手くやって欲しいって。