例えば、路傍に花を供えるような

怪談、怪異が恐ろしいのはそこに無いはずのものが形を取るからだと筆者は語る。
火のないところに煙は立たないという思考は危険だ。
煙のような物が見えたから、きっと火があるはずだとと思い込む、そこに本当は火が無かったらどうなってしまうのか。
怪異はそういった、隙間を付け狙っている。
名も付かず姿すら無い怪異の数々は、貴方が『そこに何かがあるかもしれない』と思う、その可能性に入り込むことで形を成す。
現世での席が無い怪異に席を与えてしまう。
だから火のない所に煙は立たぬなどとは言えない。

怪異が居る以上、貴方は目で見て触れて確かめたことだけを本当なのだと信じなくてはならない。

実験の話をしよう。
例えば、路傍に花を供えるような。
四つ辻の電柱に花を供える、交通事故の謂れがあるかは無関係で構わない。
最初は交通事故もない道だと誰もが知っている。
けれど供えられた花を目にして、誰かが死んでいるのかもしれない、何かの供養だろうと思い込む。
そういった隙間に、それらは入ってくる。

忘れ去られた道祖神、朽ちた鳥居、名も無き刀、路傍の石くれ、山の見知らぬ獣道、それらには何もないんだから、何も無いことにしなくてはならない。
何かが有ると思うな。
手を合わせてはならない。
目を合わせてはならない。 
耳を貸してはならない。
返事をしてはならない。

それらの隙間を、見るな。
――『怪異考』、著/十刻堂 革命より


中野真夜は、マヨナカさんと呼ばれることがある生徒だ。
マヨナカさんは怪談を語る。
マヨナカさんは死んだ生徒の一人だ。
マヨナカさんの怪談を12話聞いてしまうと呪われる。

どれも噂話に過ぎない。
けれど噂話こそ見過ごせない。
嘘から出た真と言う、嘘は本当になる可能性がある。
誰もが噂をするならば、それは時に本当のことになってしまう。

ただの噂好きの少女だったとして、不安の種を蒔いてしまう彼女はどちらにせよ危険だった。

マヨナカ

『マヨナカさんは死んでもいつの間にか戻って来る』……とか?」

マヨナカ

「本当だったら便利だよね」

噂話は噂に過ぎないけれど。
こうして噂を媒介する彼女の話を聞いていたら本当のことのように聞こえてきてしまう。
本当のことになってしまえば、マヨナカさんという怪異はきっと殺せない怪異になる。
だから少しだけ、その噂を変えなくてはならない。

マヨナカさんを殺せる怪異にしなくてはならない。
僕の後ろで囁く誰かの声も殺せる怪異ということにしなくてはならないから。
その足掛かりで、僕はこの女を殺す。

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閂とざす

「マヨナカさんは真夜中に死んでも蘇るって話、知ってる?」
真夜中にだけなら、昼間には殺せるようになる。
だからこうして噂話に尾鰭を付ける。
どうにかして見えてしまった怪異を殺せるものにするために。