三禁

お前の代わりになる前に三つの禁を立てる。
これはが、お前を食いつぶさないようにと決めた規則。

一つはお前の知らない約束をしない。
私だけの約束が出来ると、お前に不利になることが増えてしまうから。

お前の知らない約束をした。一つ破った。
https://anya-meikyu.reifier.jp/rooms/messages?category=conversation&root=32809&relates=true

一つはお前と同じ喋り方をしない。
お前と私は区別されるべき存在だから。

ひとつはてちかちとくにてらかちみにみみにのちとちみちに

らもらにしちといみちに ?

こんな話を、確かお前は、どう聞いたんだったか。
語った日の記憶は酷くぼんやりとしている。
の本来の使い方とは違うから。
少しばかり無理をしているから?

違う、あの時確かに何かと目が合った。

「どうでもいいからさっさと殺してよ、私の言うこと聞けって言ったでしょ。
 もう疲れたからあとは上手くやって」

「……」

「私がやってって言ってるんだから良い」

「約束は守るよ」

「そういうのどうでもいいっていつも言ってるでしょ」
閂とざすは死にたかった。
具体的にいつから死にたかったのかと聞かれると困るところではあるが、希死念慮という言葉を認識できるようになってから、ああこの感情はそういう名前なのかと納得するようになった。

閂の家は代々退魔師で、口寄せの力を持っていた。
怪異を身に降ろして使役する能力が役に立ったことなんてほとんど無い。
小学生の頃、親戚付き合いの幼馴染と模擬戦で負けた。
その時決定的に自分には退魔師の才能も無いのだなと理解したような記憶がある。
幼馴染と同じ学校に行くのは嫌だったから避けた。
それ以来疎遠だ。

中学の頃、見てはいけないと言われた怪異を見た。
退魔師なんだから見ただけで危害を加えてくるものくらいは簡単にわかる。
それを見ないフリすることだって簡単だった。
だから見た。
隙間に住むそれは閂に死に方を教えてくれた。
退魔師は世界の修正力を飛び越えて、死を知覚してしまう。
可能なら知られることなく、死にたかった。
閂は死んで憐れまれるのだけは嫌だった。
死んだら無責任に手を合わせて、それで良い子だったなんて惜しまれるのは許せない。
そんな風に見下されるのだけは許せない。
退魔師の家系である閂が、退魔師に知られずに死ぬのは困難だった。
どんな怪異に殺されるにしたって、退魔師はきっと見つけてしまうから。
自殺の計画は中学の間に立てた。
家宝の刀にバレないように、秘密の友達と共謀して。
仮に友達と呼ぶ。
隙間の怪異だとか
高校は普通科にした。
特進科の他の退魔師を見て自分のハズレくじの能力に溜息を吐くのなんてごめんだった。
火を出したり、氷を出したり、そんな単純な能力の方が良かった。
持って生まれたモノだから仕方のないことだけど。

日記を付けた。
鬱屈とした感情をなるべくどうでもよく書いた。
好き勝手に考察でもしてろよ。
日記に書けることなんて都合の良い事だけなんだから。

それで肝心の計画がこうだった。
口寄せの能力を使って、鍵丸に閂の代わりになってもらう。
そうすれば表向きの閂は世界に存在しなくても良くなる。
友達は弱すぎて長期的に話すことが出来ない怪異だから無しだ。
名前すら無い怪異では退魔師を乗っ取ることなんて出来ない。

鍵丸は生真面目だから完全には従わないし、きっと3つ程度の禁則を設けて来る。
怪異の癖にそういう所は生真面目だった。
そこで友達に忘れさせてもらう。
禁則そのものを忘れさせてしまえばいつかは破ることになるから。
鍵丸と友達はそもそも似通った成り立ちであるらしい。
所謂イマジナリーフレンドというモノを起源とする、だから干渉は容易だった。

禁則を破れば身体の支配権は鍵丸に移るはずだ。


鍵丸は閂を砂地で砂粒を噛む虫のようだと思っていた。
後ろ向きにしか進まない、考えることは毒ばかり、誰に対しても心を許さない。
そんな持ち主でも好きだった。
そんな持ち主であっても尽くしてやりたかった。
きっと成長すればどこにだって行けると教えてやりたかった。
死ぬ以外の道を探して欲しかった。
一番最初の持ち主が話しかけてくれた時、死に損ねたけれど鍵丸が居て良かったと言ってくれたから。
そういう視線を彼女が大層嫌っていたと知ったのは手遅れになってからだった。

外から閉じた扉は内から開けられない。