雨、傘は差さない


……今日は雨が降っているようだ。
[雨に紛れる]を覚えました。
……。
赤と青の紫陽花が咲き誇っている。
ロザーリオ : (傘は取らなかった。今日は要らない。結局帰らなかったし、誰とも会いたくはなかったから)
カルロ : (傘をさして息を切らし走ってくる。あなたの姿を見つけ、足を止めた)
カルロ : ……ロザーリオ!
ロザーリオ : ……話の続きでも?
カルロ : (あなたは雨に打たれたまま。かつてこの場所にいた夏とは逆だ。曖昧に目を伏せた)
カルロ : ごめん。
ロザーリオ : 別に謝ってほしいからすげない態度を取ったわけではありません。
カルロ : でもきっとひどく傷つけた。ロザーリオが今までひた隠してきたことだ。
カルロ : 今だって……ずっと……。
ロザーリオ : 手の傷を隠したまま手を握り、話せる方だと自負しています。そう思わせたならすみません。
カルロ : ……。
ロザーリオ : 耳が無い訳で無し。聞く耳くらいは持ちましょう。どうなさりたい。最終的には。
カルロ : あんたが俺の前で迂遠な言葉遣いをすることは滅多にない。
ロザーリオ : 普段通りです
カルロ : いつもより強がりだ。……俺は。ロザーリオがくれた名前のように。
カルロ : あなたに自由で、幸せであってほしいと思う。
カルロ : 見ないようにしていても向こうからやってきたとき。何も知らないまま、何もできないのは嫌だから。
ロザーリオ : ……何かあれば一人で終わらせるつもりです。そっちの方が正しいと思う、貴方の手を煩わせるつもりはない。では駄目ですか。
ロザーリオ : ならどう言って欲しい。台本を寄越してくれればその通りに言いますよ。
カルロ : 嫌だ。ロザーリオ、あんたからそんな言葉を聞きたくなかった……!
カルロ : 今更一人芝居に興じると?何も信じられないくせに。
カルロ : ……俺は最後まであんたといたい。幾ら傷付いても構わない。
ロザーリオ : だってわかりません、今何を言えば正解なのか。自由に選んで良いとされて、選んだ内容に自分が納得するかどうかも良く、わかりませんし、貴方が決めてくれた方が良い
カルロ : ロザーリオ……。
ロザーリオ : 今のも合ってはいませんよね。すみません
カルロ : 正しくなくてもいいんだ。正解なんてない問いのほうがずっと多い。
カルロ : 分からないなら分からないままでいい。
カルロ : (仮面を軽く指先で弾いた)あとすぐ謝らない。
ロザーリオ : …………
ロザーリオ : ……
ロザーリオ : そこを封じられるとなると、喋れなくなります。
カルロ : フフ……あんたは真面目過ぎる。
ロザーリオ : 多分、どう言われた所で完全には納得出来ません、負けたのだから従うのだとした方が納得できる。
ロザーリオ : と思います……おそらくは。
カルロ : そうか。あんたが知られること自体嫌だって言うんだから相当だな。
カルロ : ……一人で抱えて死んだほうがマシ?
ロザーリオ : ……はい。今のところは。
カルロ : 俺も言えてないしお互い様だな。
ロザーリオ : そちらを詮索する気はありませんよ。
カルロ : どっちも傷付くかもしれないから。
カルロ : ……ロザーリオになら話してもいいかなと思えてきたとこ。ちょっとだけ。
カルロ : どんな過去があろうとも俺は俺で。あんたはあんただ。
ロザーリオ : ……好きなように学んで、それでどうなっても知りませんよ。
カルロ : 全然納得行ってませんって答えだな。
ロザーリオ : いってません。
カルロ : 20年以上一人で背負ってきたんだ、無理もない……。
カルロ : ……今は一人じゃないだろうが。
ロザーリオ : ……今日はやけに詰める、逃げたのは私ですが。
カルロ : そんな苦しそうにされたら放っておけない。抉ったのは俺だけど。
カルロ : 俺はそんなに頼りないか?分かち合うことも知ることも間違いか?
ロザーリオ : ……ただの年下でも、子供でも無いとは思っていますよ。
カルロ : ……。
ロザーリオ : でも、好きだから良くないところや、悪い部分を見せたくないと思うのはそんなにいけませんか。過剰に心配しているかもしれません、
ロザーリオ : ……纏まらない、手放しに貴方の手を取れない。自分でもきっと妙なことを言ってしまっている。
カルロ : ああ、カッコつけで見栄っ張りだとも。そうして上辺を繕っては自身の首を絞める。
カルロ : 見えない部分をすり減らして、どうしようもなく不器用で、……
カルロ : そんなあんたが好きだ。だから、ひとりでいかないで。
ロザーリオ : ……傘、貸してください。違うな、入れて貰っても良いですか。
カルロ : (声は震えていた。雨粒が跳ねて落ちた。)
カルロ : え、 ……うん。最初からそのつもりで差してきたし。
ロザーリオ : ……寒い。もう少し隣に。
カルロ : ん(あなたのほうが背が高い。少し傘を上にあげて、傍に寄った)
(To カルロ : すみませんでした。手放しに貴方が新しいことを学び、私について知ることを認められはしませんが。何かある時は、貴方に頼らせてください。それが多分、一番納得行くはずですから。)
カルロ : ……(片手でそっとあなたの頬を撫でる。どちらもひどく冷たい)
(From カルロ : 分かった。……驚いたし、寂しい気持ちもあるけど、……一番苦しいのはきっとロザーリオのほうだ。気持ちを表してくれて、考えてくれて、嬉しい俺もいる。ありがとう。)
(To カルロ : (添えられた手を取って、それから少しだけ強引に口付けた)……ありがとう、戻りましょうか。)
(From カルロ : ……あ、……まったく……(最初からこうして有耶無耶にしても良かったのに、あなたはそうしなかった。困ったように微笑んで)帰ろう。)
……今日は雨が降っているようだ。