Eno.405 逆さの魔女マサカマ  【閑話】昔の話 - くらやみの森

マサカマ
「この前は眠れない時の対処法の話をしたっけ、簡単なことだよ
 長い昔話でも聞けばいいんだ」

マサカマ
「私の話、それなりに長いから。折角だ、話そうか。」




 の世界には魔女と呼ばれる存在が居る。
 個体差はあれど、魔女は固有の魔法を持ち、人に仇為す存在だ。
 マサカサカサマ逆さの魔女と呼ばれたその魔女は物事を逆さにする魔女だった。

 ただ逆さにして、そうして戻す。
 力の限界を知ってみたかった、何処まで出来るのか、どこまでやって良いのか
 物事の境界を知りたかった。

 好奇心のままに水を入れたコップを逆さにした。
 逆さにしてしまったら、水は全て流れ落ちてしまった。
 逆さにすれば損なわれるものがある。これは人間でも同じだった。
 マサカサカサマはひっくり返しても変わらない魔女だった。
 だから逆さにして損なわれることがよくわからなかった。
 逆さにしても大丈夫な物の境界を探した。

 名前はこの魔法に於いて特に重要だった。
 上から読んでも下から読んでも全く同じモノ。
 回文を名前として持つモノはひっくり返しても損なわれなかった。
 

逆さの魔女
「それで、ひっくり返されに来たの?君は」


 見知らぬ来訪者を前に、魔女は様子を伺うように尋ねた。
 日頃の通りに、杖から逆さに下がってそのままに相手を見分した。
 銀の髪、銀の剣、魔女狩りは皆そうだとうわさに聞いたことがある。

魔女狩りのナガリ
「お前を殺しに来たんだ、逆さの魔女」


 この前逆さにした子供はそのまま元には戻らなかった。
 今も逆さまに歩いているのだろう。
 それが目に留まったから、魔女狩りは来たのだろう。

 魔女を殺す方法は知っているだろうか、心臓を潰すのが一番確実な方法だ。
 魔女の心臓は魔法の本質、本質がわかっていなければ魔女を殺すことは出来ない。

逆さの魔女
「面白い事言うね。
 殺し方、わかってるんだ?」


 大抵の魔女は、自分の心臓本質がどこにあるか知っている。
 知っているけれど、それを潰されることは無いと思っている。
 だからこの日は油断したんだと思う。

魔女狩りのナガリ
「わからずに来る魔女狩りは居ない」


 魔女狩りはそう言って、魔女の名前を刻んだ。
 名前を刻む技、だから名狩りナガリなんだと後から噂に聞いた。

 逆さの魔女マサカサカサマ、その心臓は名前のサカサだった。
 心臓本質を失った逆さの魔法は制御を失って、それで……空に落ちてそのままおしまい。
 


マサカマ
「で、終わってたら私は此処にいない訳で。
 それで、落ちて死んじゃう前にギリギリで自分を逆さにしたの」

マサカマ
「制御できない魔法なんて使いたくなかったけどね
 ひっくり返ったら色々失われちゃうなんて怖いじゃない」

マサカマ
「その時に、もひっくり返っちゃったみたいなの」

マサカマ
「人間なんて酷い奴ら殺してやる、って思ってたのにね。
 今はどうでもいいや……」

マサカマ
「そんなわけで、私はマサカサカサマから、
 サカサが抜けてマサカマになったの」

マサカマ
「……あ、聞いてなかったでしょ。
 もう寝てる?あーあ……」









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