花と鍵の刻まれた封蝋

(いつかのどこか)
(直接か、人伝か、知らぬうちにか)

(経緯はどうあれ、この手紙はあなたの手元)
(花と鍵の刻まれた封蝋を解けば一つの便せん)


「幸運を 去り行く者に敬礼を」


(ただそれだけが綴られている)

(旅立つ話をどこぞで聞いたか)
(あるいは何かしらの予感でもあったか)
(それともあなたが「稀人」であるからか)


(いずれにせよ、真偽を確かめるすべはない)

(あなたはここを去る)
(去ったあなたを彼女は憶えない)
(彼女の頭は去った者を憶えられない)

(ただの記録として残るだけ)


(それだけだ)




旅人は小さく笑い、そして些細な思い出として去ることを選んだ。
この地に残したものは少ないけれど、貴方の頭の中には留まらない。
どうかこの地で良き人生を過ごされますように。