野盗

深い疲労感と、貼りついたような鈍痛があった。
背中が湿っている。腐葉土の上に寝ているような心地。
俺は自分が倒れていることにようやく気付いた。
何故、倒れたのだったか。

指先を動かそうとする。冷え切って動かない。
立ち上がろうとする。鈍い痛みがそれを咎める。
口を動かそうとした時、足音が近づいて来た。

特に意味がないのに息を潜める。
足音は少しずつ近づいて来た。
此方に用事でもあるのだろうか。
楽観的な思考が脳を満たす。
日頃ならばもっと、危機感のある思考をしていた気がする。

「お、死んでる?」

死んでねえよ。
口は開かない。もう疲れ切っている。
唇が切れている気がする、僅かに割れたような痛みが走った。

「何か持ってそう?」

ああ、野盗だ。冒険者かもしれない。
懐に手が伸びてくる。俺はそれを止める事が出来ない。
自分でも倒れた相手にはそういう対応をする。全く運が無い。

抗議してやろうか。せめて口が動けば。
いいや、そもそも金目の物など持ってはいない。
荷物から小銭が数個取り上げられる。
目は上手く開かない、半開きが近い。
たまに光が差し込んできて眩しい。
瞼が継続的にサボっているせいだ。
感触と、音が状況を伝えてくる。

「はあ、少ないね……」

黙ってろよと内心で毒づく。
失礼なヤツだ。態々俺に聞こえるように言っているのか?
そうだとしたら殴られる可能性を考慮できないのだろう。
俺は殴ることすら出来ず、こうして考える事しか出来ない。
良かったな、持って行けよ。
大した金じゃない。

「携帯食と、ポーションか……これは流石に要らん」

選り好みしやがるのか、この期に及んで。
俺は決死の力を振り絞り、肩を動かした。

「っとぉ……」

足音が躊躇いがちに数歩下がる。
決死の抵抗はそれで終わった。芳しくない。

再度足音が近づいて来る。
まだ何か取るものでもあるのか。
俺は脳内で背嚢の中身をひっくり返した。
予備の矢、予備の弦、携帯食料、手帳、筆記具、スクロール。
大したものは何も入っていない。

衣擦れの音が響く。
金具を外す掠れた金属音。

「あ、これは当たりだ」

どれだ。
思い当たる物を考え、
それよりも遥かに早く、手が動いた。

「っ!」

スクロールが落ちる。
ああ、下らない。

別に、何回でも書き直せるものなのに。

足音が走って離れていく。
俺は腐葉土の上に転がったまま、瞼が仕事をやめるのに任せた。