依頼人:
依頼を受けてくださった冒険者さんですね。
本日はよろしくお願いします。
ロザーリオ : はい、よろしくお願いします
カルロ : ああ、よろしく。
小さな温室の手前で、依頼人は穏やかな笑みを浮かべ立っていた。
……今回の依頼は魔道具の試験だ。
予め聞いた話によれば、肉体労働やそれに付随する危険性などは無く、
言ってしまえばただ座って喋るだけで済むようなものであるらしい。
ロザーリオ : 座って喋るだけというのは珍しいなと思ったのですが
カルロ : それなら冒険者でなくてもできそうなものだけどな
その上で報酬は50L。
依頼元も信頼できるという評があり、それだけ見れば実に美味しい依頼ではあった。
ロザーリオ : 何かあるのかもしれませんね。
カルロ : 一応は魔道具ってことだしな…
依頼人:
それでは、依頼書にも書いた通り。
この温室の中で私の開発した魔道具の試験運用を行います。
ロザーリオ : はい
カルロ : (温室を眺めた)
依頼人:
冒険者さんには魔道具が正常に動いているかどうか、
テストをしていただきます。
とはいえ、特に複雑なことはなく――
依頼人:
出された題に対して、「真実」を語っていただければ問題ありません。
ロザーリオ : 真実を?
カルロ : 本当のことを言えばいいってことかな
依頼人:
何か質問があればお答えします。
ロザーリオ : 真実と言われましても
ロザーリオが[「真実」とは]を選択しました
依頼人:
言葉の通りです。この温室の中で、
こちらが用意した題に対して嘘をつかず正直にお話しください。
ロザーリオ : ああ、嘘を吐くなということですか。まあ……
カルロ : (少し歯切れ悪そうな様子にちょっぴり苦笑いした)……お題にもよるだろうけど難しいことはないんじゃないか?
ロザーリオ : まあ。はい
依頼人:
何か質問があればお答えします。
ロザーリオが[魔道具の詳細]を選択しました
依頼人:
語られた内容の真偽を見破ります。
…といってもまだ、真実が語られれば光る、というだけの実に単純な働きしかしない魔道具ですが。
ロザーリオ : 成程、光らなければ嘘と
カルロ : 噓発見器の逆みたいなものか
依頼人:
あとは真実、といっても「本人にとっての」になります。
真相が違えども、本人が本当だと信じてるならば……といった感じですね。
依頼人:
しかしそれだけでも見抜くだけならば十分に役立つと考えています。
故にこの魔道具がきちんと判別出来てるかテストを行いたく。
ロザーリオ : 成程、ですがそれなら誤魔化しようも多そうですね
ロザーリオが[嘘をつかずとも誤魔化しようがあるのでは]を選択しました
依頼人:
話した内容にそういった「誤魔化し」の感情が含まれた場合、誤作動がなければ光らないように調整してあります。
それからわざと「一言二言だけ」に留めようとする答え方にも。
ロザーリオ : ……
カルロ : はは……
依頼人:
それを通せるようにしてしまうと、目的を果たせませんから……。
黙秘だけは出来ますが、聞かれて黙秘するならば、都合が悪いということですしね。
カルロ : きちんと真実を話す、くらいはしてほしいってことだな
ロザーリオ : まあ、はい
依頼人:
何か質問があればお答えします。
ロザーリオ : それで此処は?
カルロ : どうして温室なんだろうな
ロザーリオが[温室の詳細]を選択しました
依頼人:
一応魔道具の使用目的のこともあって、一度入ったら、
幾つかの題に答えないと出られない仕組みにしてあります。
カルロ : ……尋問にでも使うんだろうか…
ロザーリオ : 余り嬉しくはない仕組みですね
依頼人:
ただ念の為、防音の魔法も同時に掛けてありますので外部に一切会話が漏れることはありません。
中で行われた会話については守秘をお約束します。
ロザーリオ : 成程
カルロ : そうか まあ見た目は悪くないな
カルロ : (温室の扉を確かめた)
依頼人:
とはいえ、今回はあくまでただ普通にお話してもらうだけなので、そんなに身構えなくとも大丈夫だと思います。
依頼人:
流石にまさか聞かれること全てが後ろめたい人なんていないでしょうし……
ロザーリオ : 流石にそこまでは
カルロ : ふふっ……
依頼人:
何か質問があればお答えします。
カルロ : そんなところかな
ロザーリオ : では行きますか?
カルロ : ああ
ロザーリオが[……]を選択しました
依頼人:
説明は以上で大丈夫でしょうか。
ロザーリオが[はい]を選択しました
依頼人:
それでは中にお入りください。私は外で待機していますね。
温室の扉が開かれる。
中心には、魔道具の置かれた白いテーブルと
人数分の椅子が用意されているのが見えた。
……ひとまず、中に入るとしよう。
テーブルの上には、魔道具の他にカードの束。
それから温かな紅茶とケーキが用意されていた。
今回はあくまで試験運用であり、聞き出す内容を指定する者はいない。
カードはその代わりに、話す題を決めさせるようだった。
……各々が引いて語っていくとしよう。
カルロ : ちょっと不思議な感じだ
ロザーリオ : カードを引いて話すとのことでしたが
カルロ : これかな?……わざわざお茶とお菓子まで
ロザーリオ : ……どうします?
カルロ : (早速紅茶に砂糖を入れている ざらざら…)
カルロ : (くるくるかき混ぜて一口飲んだ)最初は譲ろうか
ロザーリオ : ではそのように
ロザーリオ : (引いた)む……食の好き嫌い……ですか
カルロ : ……うまい、終わったらなんて銘柄か教えてもらおう(ケーキもフォークで一口切り出して口に運ぶ)
カルロ : 分かりやすいお題でよかった
カルロ : なんとなくは把握してるつもりだけど…
ロザーリオ : 余り食べること自体が無いのですが、辛い物はそれなりに好きだと思っていますよ。
カルロ : そう言ってたよな。
カルロ : なんで好きなのか理由あったりするか?
ロザーリオ : ……
ロザーリオ : わ、わかりません……ではダメでしょうか
カルロ : んまあわかんないなら仕方ないよな
カルロ : (合間にケーキが減っていく)
カルロ : 俺は甘いものが好きだけど、たぶん故郷じゃ滅多に食えなくて…特別なものだったからなんだ
カルロ : あと酒ね
ロザーリオ : かなり良く飲みますよね
ロザーリオ : 最近は減った方だとは思いますが
カルロ : ……一応こっちに来てからだよ、うまいもの多いんだもん
カルロ : ま、まあ……
カルロ : ロザーリオの手前、俺だけ飲みすぎるのもなと
カルロ : ほどほどにしている
ロザーリオ : 成程。飲めないことも苦手に含んで良いのなら酒はあまり得意ではありませんね。これで好き嫌いについては良いでしょうか
カルロ : ちなみに俺は漬物がちょっと苦手。昔、毎日でてきたから… うん、いいんじゃないかな
ロザーリオ : ではカルロ、次は貴方が引いて下さい
カルロ : オーケー じゃあ…
カルロ : えーっと…天気の好き嫌いについて
ロザーリオ : 天気ですか
カルロ : 雨の日が好き。雨音を聞いてるとなんていうか落ち着く
ロザーリオ : 私も雨は好きですよ
カルロ : それは嬉しいな
カルロ : あの町はひと月以上も雨続きだったね
ロザーリオ : そうですね、普通の街であれば水害を警戒するくらいです
カルロ : 不思議とその心配はいらなかったな
カルロ : 植物もやたらよく育ったし、特殊な土地なんだろうけど
ロザーリオ : もしかしたらあの街の雨それ自体が亡霊だったのかもしれませんね。少し比喩に近いですが
カルロ : ふふ、ちょっと詩的でいいなそれ
カルロ : また立ち寄るか…
カルロ : 嫌いなのはカンカン照り続きだな、眩しすぎて苦手ともいう
ロザーリオ : ああ、幽霊……でしたよね。そうなると日差しの強い場所に居る印象はありませんね
カルロ : ここだけの秘密。それっぽくないと言われればそうかもしれないけど(微笑んで)
カルロ : まあ、日照りの土地は堪えるよ。強い光が得意じゃないの、目が青いのもあるかもしれない
カルロ : そんなところかな
ロザーリオ : 良いんじゃないでしょうか。順調です
ロザーリオ : 次は私でしたね
ロザーリオ : ああ、簡単なものが出ました
カルロ : どうぞ(ケーキは一切れなくなった…)
ロザーリオ : 花の好みについては前話しましたよね
ロザーリオ : 覚えていますか?
カルロ : おっ。懐かしいな、勿論
カルロ : まだ昨日のことみたいに思い出せるぜ
ロザーリオ : おや、それは嬉しいな
カルロ : 俺が聞いたことだしな(言いそうになってそわそわしている…)
ロザーリオ : アスチルベが好きという話でしたね。終わりです。特に他に嫌いな花だとかはありません
カルロ : 見かけの印象だとバラとか似合うよな。あのふわふわした花が好きなの、ロザーリオらしくてなんだか嬉しい
カルロ : あんまりものの好き嫌いないと思うんだけど、結構はっきり答えてくれたよな
ロザーリオ : そういえばバラはそこまでですね……
カルロ : そうなんだ
ロザーリオ : まあこんなところでしょう……簡単なお題が多くて助かるところではあります
カルロ : ついでに俺はアジサイが好き。ちょうど時期だな さて次…
カルロ : 冒険者になった理由について。趣向が変わったな
ロザーリオ : おや、案外知りませんね
ロザーリオ : というかカルロのことはあまり知らない気もします、聞かないから……という所もある気はしますが
カルロ : 故郷にいられなくなったから旅に出たんだ
カルロ : で、色々見て学びながら日銭を稼ぐには冒険者がちょうど良かった…ってところ
ロザーリオ : 案外普通の理由ですね
カルロ : 俺が過ごしてきた以前のこと、あまり面白いこともないと思ってるからなあ…話すまでもないというか…理由は至って普通だよ
ロザーリオ : まあ、今の方が重要です。困ることを聞くつもりはありませんから
カルロ : ふふ。……向きではあったからよかったな。こうして一緒にいられるんだしね
カルロ : そんなところか
ロザーリオ : 私も似たようなものです。まああまり重要ではないかな
ロザーリオ : む……(カードを引いた)
カルロ : 案外似た者同士だったかね… ……どう?
ロザーリオ : 過去で一番後悔していること……
カルロ : 急に重いな
ロザーリオ : 余りこうなる以前のことは覚えていないので、最近の話になりますが……
ロザーリオ : 死霊術を学びたいと言われた時の対応については少し良くなかったかなと……
カルロ : ……そのことか。俺も独断で動いて悪かった
ロザーリオ : まあ、余り良い話でもありません、終わったことですし……
カルロ : ロザーリオの過去も、傷もあんたのものだ
カルロ : ……またこうして話せるんだからよかったよ
カルロ : 喧嘩したのってあれっきりじゃないか?
ロザーリオ : そうかもしれません、あまり喧嘩なんかにならないようには心がけているつもりですよ
カルロ : それだけ大事にしてくれてるのなら嬉しいね
ロザーリオ : 次で最後でしょうか……
カルロ : (カードを一枚捲る)……家族構成について
カルロ : こっちに来る前は爺ちゃん……祖父と、双子の兄が一人
カルロ : 父は物心ついたころにはいなかった、母は数年前に病でなくしてる
カルロ : ……けどまあ村の皆が家族みたいなものだったから
ロザーリオ : 余り気になったことはない……と?
カルロ : そうだな、あまり寂しいとかは、さほど
ロザーリオ : なら悪いことではありませんね。私はもうほとんど覚えていませんが。覚えていられる内は大切になさってください
カルロ : 今はロザーリオがいる。それだけで十分。 ……そうだな
カルロ : そのうち忘れていくんだろうけど……でも、ちゃんと大切にされてたことはわかるよ
カルロ : 思い出せる湖河はいつでも青くて綺麗だから
カルロ : ……これでおしまいかね
ロザーリオ : (何か語りかけたが、その言葉はしまっておくことにした)ええ
カルロ : ちょっと緊張したけど過ぎるとあっという間だ…
ロザーリオ : 案外面白いものでしたね。まあ、貴方の前ではあまり嘘もつきませんから。有利な場だったといえばそうかもしれません
カルロ : 言われてみればそうだな。ふふ、俺以外には嘘とおためごかしって言ってるようなものだって惚気ていいところか?
ロザーリオ : そう受け取って下さっても構いませんよ
ロザーリオ : さ、出ましょうか。
カルロ : も、もう……(ちょっとくらい照れてくれてもいいじゃん…とこぼして席を立つ)
依頼人:
お疲れ様です。魔道具は正常に動きましたか?
……うん、問題はなさそうですね。
冒険者の報告に依頼人が頷き、記録を書く。
語り終えた後の此方の様子について、何かを問う気は無いらしい。
ロザーリオ : そういえば何故これを?尋問か何かに?
カルロ : こほん……大丈夫そうだったぞ。ああ、なんで作ったのかは気になるな
ロザーリオが[何故この魔道具を開発したのか]を選択しました
依頼人が顔を上げた。
依頼人:
何故って……、
聞きたいことに対して嘘はつかれない方が良いでしょう。
誤魔化しをされないことも。
依頼人:
真っ直ぐに話すばかりが正しいわけでないことも理解はしてますよ。
しかし、世の中は嘘で埋めてしまおうとする人が多い。
依頼人:
だから、埋められる前に。人の抱えた真実を拾い上げても良いのではないかと思ったんです。
墓まで持っていくという考え方を私が好まないのもありますが。
ロザーリオ : なるほど
カルロ : ……(ロザーリオのほうを見た)
カルロ : (それから依頼人へ向き直る)研究者気質かも
依頼人:
ひとまずの目標としては、裁判などでこの魔道具を普及させることですが……まだ色々と懸念点もありますし、試験運用ももう少し繰り返していきたいところです。
依頼人:
機会があれば、また是非仕事を受けていただけるとありがたいです。
ロザーリオ : フフ、そうですか
ロザーリオ : (敢えて考えを口にすることはなかった。常套手段だ)
カルロ : 法廷では役に立ちそうだな …良い使い方がされることを祈っておく
そうして「ありがとうございました」と依頼人が頭を下げる。
此方も宿に戻って報酬を受け取るとしよう。
……様々に、思うことがあるとしても。
真が語られた結果は、どう実りゆくのか、あるいは再び埋められ朽ちるのか。
今はまだわからないことだ。
ロザーリオ : お疲れ様でした
カルロ : また、次の舞台へ
[報酬袋] を手に入れた。