逆児

法水怜の母親は彼女が産まれたその時に絶命した。
母体の命を保ったままに逆児を取り上げることは当時の医療では不可能だった。
歯の生え揃ったままに産まれ、身体に鱗を生えさせた鬼子は怜と名付けられ、父とその親戚によって育てられた。
母の死は秘匿された。
病によって2歳の頃に死んだと怜には伝えられた。
それが法水怜の最初の殺人だった。

彼女は聡かった。
特に何かの手順や思考をなぞるのを好んでいた。
その興味が母の死の真相に向くのも早く、隠された死はすぐに暴かれることとなる。
探ることを禁じた所で、その興味の指向性を変えることは出来ない。
誰かが何かを思考することは誰にも制御出来ないことだった。

6歳の時、母の死の真相を突き止めた怜はその日の内に母の墓を暴いた。
小児の手でも簡単に暴けるほどに母の墓は何度も開けられた形跡がある。
母の墓には人のものではない骨が奇麗に数個だけ並んでいた。
肖像画を見た時、記録を目にした時、そしてこの墓を目にした時、母は人魚だったのだと確信した。
人魚の血肉、骨は薬として用いられる。
墓荒しにあって尚、母の骨は美しかった。
怜はその骨の一つを持ち去った、自分の物だと思ったからだ。
母が自分を産んで死んだことが嬉しかった。
あの肖像画の中の女を手に掛けたのが自分だと思うと、自然と気が昂った。
彼女は聡かった、その歳の頃にはこれがいけないことだと半ば理解していた。
骨を拾ったその日から品行方正に過ごすこととした。
知られてはならないと考えた。
思考の中では何人殺しても構わない、現実でやってしまえばそれは罪になってしまう。

怜は探偵を志した。
犯人の思考をなぞるのは得意だった。
自分のやりたいことをなぞれば、それが答えになるから。
二度目はまだ起きていない。