実践調査


ダミアン : 今日ロサにここまでついてきて貰った理由……お分かりですね?
ロザーリオ : さあ、心当たりがあり過ぎるもので。なんです?
ダミアン : 決まっています! 貴方の診察ですよ。
ロザーリオ : ああ、それでしたか。まあ、悪いところがあるかと言えばそうですが。
ダミアン : 全身ですね。(一言多い。)
ロザーリオ : (叩いた)
ダミアン : なんでっ!
ロザーリオ : それで、寝れば良いですか
ダミアン : ええ。そこに横になってください。体に負担がかかるようですが、やりやすいので。
ロザーリオ : まあ。解決はしないでしょうが。どうぞ
ダミアン : ……以前簡易的な検診をしましたね。その時、貴方に高度の死霊術がかかっていることを理解しました。
ダミアン : しかし、死霊術とは幾重にもかけられた鍵のようなものなのです。
ロザーリオ : そうですね、なのであまり触られるのもどうかと考えていますが……
ロザーリオ : 素人意見ですし。これも
ダミアン : どこかに鍵穴があるはず。今日はそれを探そうと考えています。それに……。
ダミアン : 貴方、棄てられたのでしょう。そこでべつの死霊術師に触られて、主人がやってくるのであれば。
ダミアン : 遅かれ早かれ、相手はいずれ来る運命にありますよ。
ロザーリオ : 多分恐らくは。アレの考えることは正直良くはわかりませんがね。まだ動く状態のものをそのままにする道理を考えるなら、という所ですし。
ダミアン : 上、脱いでください。
ダミアン : (恋人がいる人間にあるまじき台詞だった。しかし、男の目は真剣そのもの。その眼差しは医者に似ている。)
ロザーリオ : はいはい(話していた所で話が進むわけでもなし、上着は適当に掛けた)
ダミアン : シャツもです。
ロザーリオ : 今からという所でしたが。なんです?全く
ダミアン : ……心配しなくても、ルームサービスは来ないようにしてあります。私の駐在地点ですし……。
ダミアン : (スケルトン要素を気にしているらしい。……確かに部屋には私物が多い。本棚はダミアン好みに改造されている。)
ロザーリオ : どうこうするからには丁重に(まあまあ不満そうに渋々脱いだ)
ダミアン : やはり、心臓はありませんね……。
ロザーリオ : あったら何か違うんです
ダミアン : ええ。あくまで私の知る中での主流でございますが──心臓は魔術において重要な位置づけにあります。
ダミアン : 人間は三つの要素で構成されているのです。
ダミアン : 魂、心、体。
ロザーリオ : 魂と心はほぼ同一のようにも思えますが。違うんですか?
ダミアン : ええ。ここが少しややこしいのですが……。魂と心はイコールではありません。貴方が今、死霊術師に魂を捕縛されている中、自分でものを考えているのがその証です。
ロザーリオ : 尤もらしく丸め込まれている心地もややありますが、一旦は納得しておきましょう。
ダミアン : 何故です!説明しましょう。(以下長文の説明。くどくどくど……。)
ロザーリオ : (そちらの口元を指してもういいと示した)
ダミアン : ごほん。それで、貴方には心臓がありません。魔術において人間に魂が宿ると考えられているのが心臓ですので、これは相手方の手元にあると考えてよいでしょう。
ダミアン : そうでなければ今貴方は動いていないですからね。そうでないのは例外──なんらかの事情がある存在です。
ロザーリオ : 取り返せば終わりに出来るんでしょうか
ダミアン : そうですね。取り返して、まあ、破壊すれば……。
ダミアン : ……やめなさい!
ロザーリオ : なるほど
ダミアン : ……。で、ですね。
ダミアン : あなたは今知性があるアンデッドの状態です。これは、『心』がまだ機能している状態だからです。
ダミアン : 自我をつかさどるものが、要は人間でいう脳味噌ですね。ですが、貴方には、あーー、言いづらいのですが、
ロザーリオ : 無いのは知ってますよ。無くなってから何年経ったと思っているんです。
ダミアン : ……ええ、そうですね。貴方には脳がありません。では、貴方の自我はどこにあるのか?
ダミアン : それを今から探します。……何故探すのかというと、貴方はそれが奪われたら真に終わってしまうからです。
ロザーリオ : 成程。どうぞ
ダミアン : (胸元、臍、腎臓の辺り。男はロザーリオの身体に検討をつけると、手をかざして何ごとか呪文を唱え始めた。)
ダミアン : (魔術大区分:エンサイクロペディア。解析の呪文だ。”鍵穴を探す”工程。)
ダミアン : ……凄いな。緻密に編まれたタペストリーみたいな術式だ……。
ロザーリオ : どうです?
ダミアン : ……んん、だめだ。穴が……。
ダミアン : ちょっと我慢してくださいね。
ロザーリオ : はあ?
ダミアン : (途端、貴方に鋭い頭痛のような感覚が走るだろう。)
ダミアンに16のダメージ ([4,4]+15)
ロザーリオ : (手を払いのけた)
ダミアン : 何ですか!?
ロザーリオ : いえ。すみませんつい
ダミアン : 悪いことはしていないのに……。
ダミアン : (──術式は解除される。)
ロザーリオ : まあ、事前に教えて欲しい所でしたね。日頃痛みを覚えることも無いもので。
ダミアン : ですから自我の在処を……。(ぶつぶつ……。)
ロザーリオ : 目的が知りたいというよりは、何が起きるのかを知りたかったという話ですよ
ダミアン : ……ぐ、失礼しました。……これは無理やり解読を試みる呪文です。
ダミアン : 解読を試みられている側は、魂に負荷がかかります。一過性ですがね。抓られるようなものです。
ロザーリオ : 成程。それならそう言えば良いでしょうに
ダミアン : まあ、故に少し危険な作業ではありましたが……。(どこかを見る。そこに発信源があるかのように)
ダミアン : (マジで全然説明しなかった。)
ロザーリオ : しくじってはいないでしょうね……
ダミアン : でも、お陰で分かりました。
ダミアン : 貴方……片目だけ肉眼ですね。
ロザーリオ : そうですね、確かそのはずです。
ダミアン : そう、その目。その灰色の眼球です。
ダミアン : それが貴方の自我の在処。
ダミアン : 貴方はそれを奪われたら、真に自我のないアンデッドになります。
ロザーリオ : 目だけで思考してるなんて言われると意味がわからないものですが
ダミアン : さあ。それは向こう方の趣味なのではありませんか。
ロザーリオ : 管理の手軽さじゃないですか。外に出ているのだから要らなくなれば潰せばそれで終わりですから。
ダミアン : 風情がないものですね。
ダミアン : ……とかく、それが破壊されたら、あなたは私やカルロとおしゃべりをすることができなくなる。
ダミアン : どうぞ大切に扱ってください。
ダミアン : 希死念慮があるからといって、潰さないでくださいね。
ロザーリオ : まあ、普段通りです
ロザーリオ : 自我が無くなった所で、その後も動くならあまり変わらないでしょう。どこまでが生きていると定義するのかによるでしょうが。
ダミアン : 私は、物を考えることこそが生だと……そう思うのですがね。
ロザーリオ : 動かなくなったらそれが完全な死だと思いますが。貴方の提唱する3つの要素に乗るなら、1つ欠ければ死に、それでも続けて動かすことが死霊術による仮初の生かと、思いますが
ダミアン : 成程。死の定義は死霊術においてある程度基盤があります。しかし、面白い考え方ですね。
ロザーリオ : 面白いと言うからには、これから愉快な否定を入れてくれるんでしょう?どうぞ
ダミアン : 貴方私のことなんだと思っているのですか!?
ダミアン : 素直な賞賛ですのに!!
ロザーリオ : おや違うんです?面白いというからには違う考えなんでしょう?
ロザーリオ : 同じ考えならば、別に面白くも無いでしょうから。フフ
ダミアン : 叩きますよ!!
ダミアン : (はた、と気づく。)
ダミアン : 魂と心、体。ひとつが掛ければ死ぬ。ロサは一つが無くなって、もう一つは支配を受けている……。
ロザーリオ : 死んでいるつもりですが。私は
ダミアン : いえ、そうじゃない。そうじゃないんです。
ダミアン : あなた、さっき私を叩いたのは……。それは、貴方の意志ですか?
ロザーリオ : (考え込んだ)
ロザーリオ : (それなりに長い時間考えて)わかりません
ダミアン : ……しくじったかも。
ロザーリオ : すみません、どちらなら、どうだと考えてるんです
ダミアン : どちらにせよ、です。貴方が今、まさに、支配術を受けている、ということ。
ダミアン : 貴方にわざわざこうして触診を行っているのは、私が糸──支配術で貴方に解析を行うのが危険だから。
ダミアン : 貴方の薬指に赤い糸でもかけてみてください。私はずたずたに殺されるでしょうね。
ロザーリオ : 一度は納得したことですが……やはりカルロに学んでほしくは無いかな……そう言われると……
ロザーリオ : まあ、納得したことではありますが……
ダミアン : 面倒くさいな
ダミアン : 彼は貴方のことを理解したい、といっていたでしょう。別に行使するだとか、そう言う話はしていない。
ロザーリオ : まあ、そうなんですが。
ダミアン : それに……。(拘束が弱まったタイミングなら、上書きが、あるいは……。ダミアンは考え込む。)
ロザーリオ : なんです
ダミアン : 話を戻します。貴方には今も尚、防衛機能が働いている。結界のようなものです。トリガーを踏めば反撃をしてくる。
ダミアン : そして。無論──そのことは主人にも伝わるでしょう。一般的に言うならば。
ロザーリオ : 音の鳴る罠のような?
ダミアン : まさに。いえ、懸念、懸念にしかすぎません。相手は何人も使役をしているのでしょう? そのうちの一人が低級の死霊術師に触れられたって、別になんてことは……。
ダミアン : ない……はず、です。
ロザーリオ : 多かったとは思いますが。どうでしょうね?
ダミアン : 相手が余程嫉妬深くなければ。
ダミアン : どうでしたか?
ロザーリオ : ……
ロザーリオ : (暫し考えて)欲しいモノがある時、他の死霊術師から取り上げる類では、ありましたか。
ダミアン : ……うーん……。
ダミアン : (ダミアンはロザーリオから少し離れた。)
ダミアン : 向こうを向いていてくださいね。
ロザーリオ : まあ、本当にわからない相手です。理解を拒みたいという点があるとも言えますが。……はい
ダミアン : (ダミアンは何かを小箱に入れた。)
ダミアン : (戻ってきたダミアンには片目が無かった。)
ロザーリオ : ……何を?
ダミアン : お守りです。この箱、開かないように。術が解けてしまう。
ダミアン : 身代わりのようなものですよ。貴方の自我が瞳に宿っていてよかった。
ダミアン : 支配術からの思考の干渉を阻みます。でも術師が強力な分、恐らく使えるのは一度きり。
ダミアン : ちなみにあとで義眼を入れるので、あまり心配しなくてよいですよ。
ロザーリオ : フフ……ああでも、返しますよ。この後無くなりましただなんてことになっても、面倒ですから。
ダミアン : 貸しを作りたくないのですか?
ロザーリオ : それもそうですが。
ロザーリオ : 確実に無くなる場所に目玉を投げ入れようとするのを献身とされても困りますから。友人でしょう?我々
ダミアン : 友人だから……なのですが……。(む、と唇を尖らせた。)
ロザーリオ : フフ……まあ信頼して下さいという所です(起き上がって手招いた)
ダミアン : ……。(無言で寄った。)
ロザーリオ : (そして箱を開けて、中身を突き返してやった。今は空いている方の眼窩に)
ダミアン : 知りませんからね!
ダミアン : (目玉は無事、元の場所に収められる。)
ロザーリオ : フフ、まあ決定的なこととなった折には笑って下さいな。それ見たことかと
ダミアン : 色んなもの見てやろうかと思ってたのに……。
ロザーリオ : 返して良かったな
ダミアン : 服、着て頂いて構いませんよ。
ダミアン : あまり触れるわけにもいかない。
ロザーリオ : はいはい……まあ、カルロには黙っていてください。私の目のこと。察しはその内付くでしょうが(手早く着替えた)
ダミアン : 何故? 協力して守られるべきでしょう。
ロザーリオ : 過剰に守ろうとする場所こそが弱点だと、誰であれすぐにわかるでしょう。そういうのは得策じゃない。
ダミアン : 相変わらずですね。
ロザーリオ : まあ、伝えるべき時に此方から伝えますので
ダミアン : 遅すぎないことを祈りますよ。
ロザーリオ : では戻りますか。今日はどうも
ダミアン : ええ。(茶の一杯でも馳走すべきなのだろうが、二人の関係はごくさっぱりとしていた。)
そろそろ帰ろうか。