嘘の吐き方

[決闘の礼儀]を覚えました。
ダミアン : いたいた。
ダミアン : ロザーリオ
ロザーリオ : おや、どうも。なんです?探していたので?
ダミアン : ええ。ほら、先日言っていた……嘘のつき方を教えていただきたくて。
取引をしました。
1ルド失った。
[紅茶] を手に入れた。
ダミアン : 探してたんですよっ。
ロザーリオ : ああ、それでしたか。構いませんよ、今は丁度暇を持て余しているところだ
ロザーリオは、紅茶を使った。
華やかな香りがふわりと漂う…
ロザーリオは[紅茶を飲む人]になった
ロザーリオ : それで、何だって唐突に嘘吐きになりたがるようになったんです。
ダミアン : (紅茶を傾ける姿に、ダミアンはちょっぴりご機嫌だ。)
ダミアン : それは、その……なんと申し上げたらいいか。
ロザーリオ : 順序を追ってどうぞ。
ダミアン : 自分でも認識しているんです。頑なで冗談が通じないし、喋りづらいし。
ダミアン : 何より。……嘘は技術だということを、最近やっと理解しました。魔法と同じ。人を傷つけることもできるが、日々を豊かにすることもできる。使い方次第で。
ロザーリオ : そうですね。嘘をつけなければ、全てを正直に話すことになってしまう。それこそ、見せなければ棘の立たない場所にもわざわざ棘を置くような物です。
ダミアン : 仰る通りで。ある街に赴いた時にも、オルフェウスだとかいう住民に指摘されました。
ロザーリオ : 初対面の相手にも言われるようなら、余程、ですよ。
ダミアン : …………。
ダミアン : もう少し人を傷つけない語り口を体得したいのです!
ロザーリオ : よろしい。とはいえ簡単なことです。全てを明かさない、明かす情報を選ぶ、それが一番簡単な嘘です。
ダミアン : それって詐欺ではありませんか。
ロザーリオ : いいえ。
ロザーリオ : 例を出してやりましょうか。前に話した内容が良いな。
ダミアン : お、お願いします。
ロザーリオ : 私は人からアンデッドとなり、そして細かな区分を述べるならスケルトンとされるでしょう。
ロザーリオ : そして、身体の大半が無いことを、私は知られたくはない。
ダミアン : そうですね。
ロザーリオ : 此処まではよくご存じでしょう?
ダミアン : はい。教えていただきました。
ロザーリオ : フガクにも黙っていたわけです。それで飯が食えなかっただとか、それで水に浮けないのだとか、彼に余計な心配をかけたくはありませんから。
ダミアン : …………。
ロザーリオ : そこで、私は自分の区分をと言われた時、何と言いましたか?覚えています?
ダミアン : (友人ならば須らく開示するべきでは? と一瞬過ったが……)
ダミアン : 失敬な。そこまで記憶力を甘く見られていたとは……。
ダミアン : スケルトンです!
ロザーリオ : (指先を数回ソーサーの上で叩いた。違う)
ロザーリオ : 甘く見ていて、それがまさに正解だったようで。私は自分のことはアンデッドだと言いましたよ。
ダミアン : …………フガクと話していたときでしたか……。
ロザーリオ : はい。
ロザーリオ : 話の流れからして、その時でしょう。指定が甘いと仰るなら次からは1から10まで述べるとしましょう。
ダミアン : む、ぐ、む、ぬ……。(不服。)
ダミアン : ……ごほん、それで。貴方は区分を尋ねられたにもかかわらず、スケルトンではなく、アンデッドと答えた。
ダミアン : スケルトンであることを知られたくなかったから。
ロザーリオ : 大区分としては、アンデッドであることも間違いではない。秘密を隠すには正しい発言でしょう?
ロザーリオ : これがもっとより遠い、初対面の相手なら私は、自分を人だと称しますよ。
ダミアン : ひ、…………。
ダミアン : そうですね。
ダミアン : そういえば私と君が初対面の時も、ロサはそうしていました。ふむ……。
ダミアンは、あげじゃがを使った。
ほくほく…
ダミアンは[あげじゃがを食べる人]になった
ダミアン : (フォークでポテトを突き刺す。)
ダミアン : 確かにこれなら、虚偽を述べていることへの罪悪感も少ない。……。
ロザーリオ : 本旨が欠けたものをわざと、それが完全な形だと称して渡すだけでも、嘘は吐けるわけです。
ダミアン : 罪悪感……。
ロザーリオ : それに、これなら意図的に隠した部分があるとバレたとしてそれが完全な嘘であるとは出来ません。本当のことの一部分だけを見せているだけなんですから。
ロザーリオ : 一から組み立てた嘘を吐くのは、次第に重くなる重りと縄を首に括るようなことです。これならつじつまを合わせる必要もない。
ダミアン : う。(ダミアンはしょっちゅうへたな嘘をつこうとして大変なことになっている。)
ダミアン : ロサ。貴方は……方法はなんでもいい、嘘をつくことに対して、罪悪感は感じますか?
ロザーリオ : 特には。与えられた台詞を読み上げるのとそう差はありません。
ダミアン : ……そうですか……。
ダミアン : (ダミアンは、嘘をつくことに対して罪悪感があるということそのものに、罪悪感を感じていた。)
ダミアン : (だって、ならばそうすべきではない。そうしない手段が許されているのだから、わざわざ……。)
ロザーリオ : これはね。円滑に話すための手ですよ。
ロザーリオ : 誰でも人と会う時に服は着るでしょう。その場に適した、相手に見せるに足るものを。
ロザーリオ : 服の下がどうだとか、そんな事を初めて会った相手に見せますか。互いに真実だけで語り合うというのは言葉だけ聞けば美しいものですが。
ロザーリオ : 貴方の為に着飾る服を選ぶ理由も無いと、そう思考を放棄しているようにも思えます。何を見せ、何を聞かせ、どういう話をしたいのか、相手によって違うでしょう?
ダミアン : …………っ。
ダミアン : (視線を落とす。)相手によって、見せる自分を選ぶ……。
ダミアン : (頷く。)そうですね。まずは一度、試してみます。
ダミアン : ロサ、練習に付きあっていただけますか。
ダミアン : 初めましてをやり直すんです。そういう設定で。
ロザーリオ : 構いませんよ。それに、こんなことを私の他には頼まないでしょう?その時点である程度は出来ると信じています。
ダミアン : ? どういうことでしょうか。
ロザーリオ : フガクに嘘の吐き方を教えてくれだとか聞きますか?
ダミアン : いえ、しません。彼は実直なので。
ダミアン : それに……貴方は話も振る舞いもうまいし、すぐに嘘を用います。
ロザーリオ : 相手のこと、ちゃんと見ているでしょう?全員に同じ対応をするわけではない。後は相手にどう見て欲しいか、自分のどの部分を見せるべきかです。
ダミアン : ロサ……。
ダミアン : (ダミアンにとってそれは課題だった。デイビィあたりにしょっちゅう指摘されていたことだ。)
ロザーリオ : それで、貴方は……ダミアンでしたっけ。折角二人きりになれたことです。少し話しませんか。何か飲みながら(そう言って少しばかりよそよそしい表情と口調で)
取引をしました。
1ルド失った。
[紅茶] を手に入れた。
ロザーリオは、紅茶を使った。
華やかな香りがふわりと漂う…
ロザーリオは[紅茶を飲む人]になった
ダミアン : わ、えと。あ、ロサ、あっ、ロザーリオ……さん。(即興劇が始まったと気づくまで、少し遅れた。それほどまでに自然な振る舞いだったから。)
ダミアン : え、ええと、わ、私たち、この辺りで活動する、冒険者同士ですもんね! せっかくだし……。
ロザーリオ : そうですね、そういえば貴方が戦う場面だとかは見たことがありませんで。どのような技をお持ちなんです?
ダミアン : (よくぞ聞いてくれました!とばかりに身を乗り出して。)血の魔術を使うんです。これは私が編み出した支……。
ダミアン : (はくはくと唇が動き)
ロザーリオ : へえ、血の(少しばかり視線を鋭くする、その言葉を咎めるように)
ダミアン : すみません……。
ロザーリオ : 何故謝るんです、上手く説明できないような術でしたか?すみませんね、魔術に関しては門外だ。
ダミアン : (しかも、まだ演目の途中らしい!)
ダミアン : (むっとした表情で、仕返しをしてやる。)ロザーリオさんこそ、魔術は使われないのですか? こう言っては失礼かもしれませんが、少し意外です。見てわかるほど筋骨隆々というわけではありませんし。
ロザーリオ : フフ、剣を使います。何、剣の腕は見た目にはわかりづらい場合もあるわけです。相手の間隙を突く、相手の動きを邪魔する、そして隙を作る。そういう技なんです。
ダミアン : へえ、器用でいらっしゃるのですね。(段々……段々ちょっと楽しくなってきてしまった。)
ロザーリオ : 冒険者とは器用に立ち回らねばやっていけない仕事でもありますからね。フフ
ダミアン : (これはあれだ。昔やった、人狼ゲームに似ている。失礼だが、まあ、この二人で今更大喧嘩なんかしないだろう。)
ダミアン : (どちらが先に、人間ではないと暴かれてしまうかのゲームだ。)
ロザーリオ : その内一緒に依頼でも行きますか。そんなに口では秘密にしたい程の魔術です、気になりますから。まさか目の前で見せられないとは言いますまい。
ダミアン : ひ、秘密というわけでは……。
ダミアン : (あの魔術は人間の時からやっていたから大丈夫、大丈夫なはず。)
ダミアン : よ、よいでしょう。では、今日は前祝といったところでしょうか。少し大げさかもしれませんが……ふふふふ。
ダミアン : 紅茶、お好きなのですか? 私も好きなんですよ。
ロザーリオ : フフ、友人が好きなものでね。前に友人に店員のおすすめを贈った時は、きちんと自分で選べと怒られましたが。その程度の知識です。詳しいのなら教えて欲しいものですね。
ダミアン : す、すみません……。今度教えて差し上げますね。(ひそひそ。)
ダミアン : ねえ、あの……。ご、ご友人がいらっしゃるのですか。へ、へえー、どのようなご友人なのですか?(そわそわ。)
ロザーリオ : (にやりと笑って)少しばかり無礼な所もありますが。高い理想を持って、誠実に努力しようとする、不器用ながらも好い人ですよ。
ダミアン : (ぱぁあっ。半分くらい短所の指摘が入った気がするが、そんなことはどうでもいい。)
ダミアン : わ、私にも友人がいます! あのですね、器用で、世渡りがうまくて、私には無いものを持っていて……。いつも人のことばかり考えている、好いひとです! ちょっと不器用なところもありますが、えへへ……。
ロザーリオ : っふふ、終いにしましょうか。術について話しだした時はどうなるかと思いましたが。
ダミアン : はっ。……あ、あぁ、はい。(夢から覚めたようだ……。)ふ、ふふふ、えへ……。
ダミアン : ロザーリオさん、いえ、ロサこそ、全然しっぽを出さないんですもん。手強い相手でした。
ロザーリオ : そもそも話題に触れなければいい、というのもわかりました?
ダミアン : 違和感のない程度に、もっと違う話題にすり替えてしまう……ええ、見事でした。
ロザーリオ : まあ、上手くやってください。繰り返すほどに馴れますよ。世間話と同じようなものなんですから。
ダミアン : ううん、それは良いことなのでしょうか……。いえ、服を着飾るのと同じ。ええ。
ダミアン : ありがとうございます、ロザーリオ。お陰様で、世間話も随分うまくなりました。
ダミアン : 私の周りには、教え方がうまい人ばかりで、恵まれていると感じます。
ロザーリオ : フフ、怒らせない程度にはなりましたよね。
ロザーリオ : それはね。貴方が誠実だとわかるから皆教えてみたくなるのだと思いますよ。
ダミアン : う。一年、人とお喋りし続けたんです。これくらいはね。私、学者ですから──
ダミアン : や、やめなさい。そういうところはお変わりないようですね。
ロザーリオ : 本心です。
ダミアン : う、うぅ……。
ダミアン : (ジャリン。多めの硬貨。馳走とチップ。)
ダミアン : 帰ります! ありがとうございましたっ!
ロザーリオ : フフ、それではまた。