風船

宿の娘さん : もう良い時間……そろそろ私は休みますね!
宿の娘さん : 皆さんもあまり遅くなりませんように…おやすみなさい!
 …………。
 ……宿の娘はそう言って部屋へと向かっていった。
カルロ : ただいまー
ロザーリオ : おやこんばんは。お帰りなさい。
カルロ : ん! もしかして待ってくれてた?
ロザーリオ : フフ、それならそういうことにしようかな。
カルロ : あっ も、もう……いいけどずるいぞ……
ロザーリオ : 何処かに出掛けていたんです?
カルロ : ちょっと依頼と、帰りに風船の町に立ち寄ってきた。
ロザーリオ : 風船の町ですか。何か買いに?
カルロ : んー、宿場町で観光地だし、なんとなく寄った程度だけど。
カルロ : ちょっと雨の町みたいでさ。ほら、あそこももとは宿場町じゃないかって話あったろ。
ロザーリオ : そういえばありましたね。あちこちに宿がありましたし
カルロ : そ。良いとこだったよ、また今度よければ一緒に行こう。
ロザーリオ : 良いですよ。最近は大きな仕事も無く、暇を持て余しているくらいですから
カルロ : やった。いたるところで風船が飛んでてさ…空に浮かんでいくんだ。
カルロ : 元々は弔いに飛ばしてたんだと。
ロザーリオ : 弔いに風船というと、どことなく魂は空に帰るだとか、そんな思想を感じさせますね
カルロ : そこじゃ風の神様を信じてるそうだし、天に還るってことなんだろうな。
ロザーリオ : 土地に依るものですね。そういうどこから来て、どこへ還るのかというのは
カルロ : ……俺のいた湖河では水からきて水に還るって言ってた。
カルロ : 雨にもなって空に巡るものだと。
ロザーリオ : ……故郷の話、あまりしたがらない物かと。この前の言い草でしたから。
カルロ : えっ。 ……そ、そう見えた?
ロザーリオ : 少なくとも私はそうかなと思いましたが……違いました?
カルロ : まだ覚えてるし、今はなくとも、帰らないけれど、恨んでるとかではないよ。
カルロ : ただそのー……俺の田舎の話してもつまらないかなとか……
ロザーリオ : 貴方の話なら、何を聞いたって大抵は面白く聞けます
カルロ : それに言いづらいことがないわけじゃないし… …も、もう…
カルロ : こっちに来て早々に理解したんだが、だいぶ変わった小さな共同体だったってこと。
ロザーリオ : ……まあ、そうだろうなとは。歳の割に貴方は自立していますし、聞く話もかなり風習が異なる
カルロ : ああ。……他に子供がいなかったのは、戦や貧困、策略色々あるけれど…
カルロ : 贄にするためでもあった、と思う。今思えば信じがたいけどさ。
ロザーリオ : ……
カルロ : 刀を齎した水神に、還すつもりだったんだ。そのために俺たちは…。
カルロ : まあ、終わった話だ。結果残ったのは俺だっただけで。
カルロ : 少なからず幸運だったと思ってるよ。
ロザーリオ : なら、絶対に離さない。
カルロ : ……、(目を瞠って数度、大きく瞬きをした)
宿の親父 : …さて、俺もそろそろ寝させてもらうぞ。
宿の親父 : お前さんも営業開始頃まで起きてるんじゃないぞ?
 …………。
 ……亭主もそう伝えると戸棚に鍵をかけ、部屋へと向かっていった。
カルロ : あ、あ~……(赤くなる頬を片手で抑え、視線を遮るようにして言葉を探す)
ロザーリオ : 私が何処かに行こうとするのを、止めてくれるように、私もそうしたいという話です。
カルロ : どうしたんだ、急に。やけに積極的にくる… ……
カルロ : 普段言わないだけでそうしてるのは知ってるよ。
カルロ : その上で自由にさせてくれることだって。
カルロ : あ、改めてこう、言われると、
ロザーリオ : 迂遠だとよく言われますから。
カルロ : うう……(寄りかかった)
カルロ : かなわないな、ホントに……
ロザーリオ : 何か飲みます?なんてね
カルロ : もー…… 今日はダメかもしれない……
ロザーリオ : なら寝ます?
カルロ : いわれる前に寝てやろうと思ったのに!
ロザーリオ : 残念でしたね?
カルロ : ぐぅ
カルロ : すっかり調子戻ったみたいで安心したっ!
ロザーリオ : ダミアンとも少し話しましたから。十分整理する時間はあったということです。
カルロ : こっちはフガクと話してきた…ダミアンにも世話掛けたな…なんかお礼するかあ…
カルロ : ま、後で考えよー……
ロザーリオ : そうですね。今度こそおすすめ以外の物を贈らなくてはなりませんし
カルロ : ふふ、自分で選ぶ練習も兼ねてね
ロザーリオ : そうです
カルロ : ん!(満足げに笑った)よし、寝る!(立ち上がり二階へと)
ロザーリオ : では一緒に行きますか
カルロ : おやすみ、ロザーリオ。
ロザーリオ : おやすみカルロ
カルロ : ……(何か待ってる顔だ)
ロザーリオ : ……?
カルロ : ……
カルロ : ……
ロザーリオ : (少し考えて頭を撫でた)
カルロ : ……惜しい… けど好きだから良い…
ロザーリオ : ……なら教えてください?
カルロ : (撫でられて目を細め、手を取って自分の頬に添えるようにして)
カルロ : 意地悪……
ロザーリオ : (添えられた手をそのまま、貴方が明確に伝えてくれるのを待っている)
カルロ : ……(暫し逡巡していたが、観念したように息を吐いて)
(From カルロ : ……キスして。)
(To カルロ : 良いでしょう。)
(To カルロ : (そう言って貴方の顔を自分の傍へと寄せ、口付けた))
カルロ : ……、……おやすみ。(もう一度、確かめるように告げる)
ロザーリオ : おやすみなさい。
カルロ : (幸せだと、言葉にするよりも雄弁に青い目が物語っていた)
カルロは[睡眠]になった