……もうすぐ雨が止みそうだ。
(ノックの音)
ダミアン:開いておりますよ、そのままどうぞ。
305番はダミアンが借りているようだ。
ダミアン : お待ちしておりました、ロサ。
ロザーリオ : どうも。お早うございます。もうこんにちはで良いかな。
ダミアン : こんにちは。楽な姿勢で、適当にお掛けください。
ロザーリオ : (暫し考えたようにしていたが席に着いて)今日は何用で?
ダミアン : ええ。貴方を本日お呼びしたのは、ひとつご提案をしたくって。
ロザーリオ : ふむ、提案ですか。
ロザーリオ : どうぞ、お聞かせください。
ダミアン : 私、そろそろこの街を立つんです。
ダミアン : その後は、件のアンデッド研究を中心に研究を行う団体を設立しようと考えておりまして。
ダミアン : ……ただ、何かと窮屈なこの時世。自衛しなければ生前の二の舞です。
ダミアン : ですから、折角の友人というこのご縁──貴方には時々、護衛をお頼みしたいと考えておりまして。
ダミアン : 後程、カルロさんにもお声掛けしようと思ってるんです。私を負かした人間と、その方を負かした人間がいれば百人力でしょう。
ロザーリオ : 団体の設立を、と言い出した時には合点も行きませんでしたが。成程。剣の腕を買いたいと。
ダミアン : ええ、無論護衛費はお出しします。冒険者稼業の傍らで構わない。
ロザーリオ : 負かしたは事実ですが、次は私が勝ちますよ……(などと呟きつつ)
ロザーリオ : 報酬も出るなら十分だ。ただの流れ者だと言うよりは箔も付く。雇ってくれる内は学者殿の護衛ですよと、名乗ってやりましょう。
ダミアン : やった。嬉しいな。
ダミアン : では、話は決まりです。
ダミアン : ……私はね、貴方のことを友人だと思ってる。
ロザーリオ : 畏まってなんです、急に
ダミアン : 取って食いやしません。ただ……。
ダミアン : 『死なせてくれるその時は、それこそ貴方の最も良いと思う形で終わらせて頂ければ』──貴方の身体構造を視たとき、ロサはそう言ったでしょう。
ロザーリオ : 今も変わっちゃいませんよ。
ダミアン : でしょうね。……でも私、ちょっとイヤだったんです。
ロザーリオ : 何故?
ダミアン : 貴方は終わりしか見ていない。
ダミアン : わざわざあんな言い回しをするくらいです、簡単に終われない身体なのでしょう。
ロザーリオ : 刺された所で死にませんで。それに、まだ全てが私の手元にあるわけでも無し。理性を失えばそこらのスケルトンと変わりなくなる、それでも終わりは来ないでしょうね。
ダミアン : ……貴方の御身体のご事情も考えた上で、申し上げているのです。
ダミアン : 終わりが来ないことと、終わりたいこと。まだ、終わりが来ないことは、別でしょう。
ロザーリオ : まあ、そうですね。
ダミアン : ……貴方が”終われる”手段は、探しておきます。その時は、私が介錯してやってもいい。でも。
ロザーリオ : なんです、勿体ぶるな……
ダミアン : だから。生きることを、諦めないでいてほしいのです。
ダミアン : 貴方には生きる意味、いえ、生きがいを探してほしい。
ロザーリオ : 生き甲斐か……
ロザーリオ : 死んでいる相手に随分面白い言い方をなさる……
ダミアン : 自らを自らであると規定できる限りは。私はそう申し上げましたよ。
ロザーリオ : …………そうでしたね。ならいよいよ堪忍して、
ロザーリオ : 終わりが来る前に、やれる限り、無くした物の続きを拾えるように。
ロザーリオ : ……わかりづらい言い方かな。ええと、あ~……
ダミアン : 貴方がよいと思った言葉で良い。
ダミアン : 私、賢いので。
ロザーリオ : そう言われると飛び越えるべき壁が高くそびえる……今日はやけにいけずだな……
ロザーリオ : 名前なんかを付けてやった奴も居る事ですし、まあ、その、責任を果たす意味でも。好きに生きてやりますよ。ええ。これで良いですか?
ダミアン : 合格です。
ダミアン : ……なんて。ふふ、十分ですよ。
ロザーリオ : 揶揄ってます?
ダミアン : いつもの仕返しです。
ロザーリオ : 参った。してやられたな……
ダミアン : 今日はやけにしおらしいですね。
ロザーリオ : 相手がどう答えて欲しいのか、この状況ならどう答えるべきか、というのは大抵、これまでに通った筋書きにあります
ロザーリオ : 今のは無かった、それだけだ……(額に手を当てて、やれやれといった動きをしてみせた)
ダミアン : 気の利いた冗談のつもりが。……まだ加減がわからないな……。
ロザーリオ : そりゃ冗談に関しては、私のが上ですよ。ダミアン。
ダミアン : ……むぅ。
ダミアン : (『私は正しく私なのか。加工の後から先も私の人生であると言えるのか。死は人生の、出来事の一つでしかないのか』)
ダミアン : (彼が出した命題。──それはすでに、彼自身が解いてしまったことを、男は知っている。)
ロザーリオ : 何をじろじろ見ているんです、そんなにご不満でした?
ダミアン : ……まさか。
ダミアン : (けれど、それを口に出すことはなかった。)
ダミアン : とにかく、私からのご提案は以上です。
ダミアン : だから、ここからは友人として。
ダミアン : ……世間話をしませんか?


ロザーリオ : フフ、構いませんよ。それで、上手く話を振れる自信のほどは?
ダミアン : 今回は気概に満ちています。(むんっ)
ダミアン : ……それで、カルロさんについてなのですけれども。
ロザーリオ : へえ、まともな話の振り方を覚えたらしい。どうぞ
ダミアン : 彼とはずいぶん仲良くやっているようで。……少々妬けてしまいますよ?
ロザーリオ : まあ、色々ありまして……
ロザーリオ : なんです?ああいう対応の方が好みで?
ダミアン : ……冗談です。私が妬けるような性格だと思いますか?
ロザーリオ : 寧ろ馴れ馴れしすぎる付き合いは苦手とする方かなと思いますね。
ダミアン : よくお分かりで。
ロザーリオ : やはり……
ダミアン : ……それで。彼のこと、貴方はどう思っているのです?
ダミアン : (関係性に名をつけるのは野暮かもしれない。……ただ、男の中には野暮という言葉は存在していなかった。)
ロザーリオ : 気になります?
ダミアン : 気になります。
ロザーリオ : 名無しで名を呼べないのだと。それで名を付けてやりました。後見人程度のつもりで接しているのですが
ダミアン : 貴方が後見人、ねぇ……。
ロザーリオ : 何です。そんなに信用なりません?
ダミアン : 意外だな、とは。貴方も人との付き合いはそう得意でないほうでしょう。
ロザーリオ : ……その瞬間だけを取り繕う方がいっとう得意なのは認めましょう。長続きするような物はダメだ。千秋楽後も続くようなやり取りは確かに不得意で……
ロザーリオ : 確かにそう考えるとやたら続く仲だな……
ダミアン : ええ。名は体を表す。こと、魔術に置いては重要なモチーフです。
ロザーリオ : ……そこまで言われると重かったですかね、やはり
ダミアン : 軽い気持ちでやることではないでしょう。ですから、そう。
ダミアン : ……責任を?
ロザーリオ : 名前すら無いのは可哀相だなと思いまして……まあ、責任は感じていますが
ダミアン : では感じるだけではなく、行動にて示すべきです。
ダミアン : (ダミアンもダミアンで、結構面倒なタイプだった。)
ロザーリオ : …………
ロザーリオ : (視線を彷徨わせてから)…………どうするのが一番だと思います?
ダミアン : 教えを施すのが一番かと。
ダミアン : 例えば、弟子であるとか。
ダミアン : 学びは人生を豊かにします。そうして、それが本質的なものである限り、人生に置いて腐ることはない。
ダミアン : 私が証明しているでしょう?
ロザーリオ : 文字通り先生になってやると?
ダミアン : そういうことです。ちなみに……。(ベッドを軋ませて、顔を上げる。)
ダミアン : 私は既に彼にテーブルマナーを教えています。
ロザーリオ : 何かについて真剣に語っているときの貴方は確かに楽しそうですしね。
ロザーリオ : …………
ロザーリオ : わ、私が先に先生だったんですが……(小声)
ダミアン : 感じるだけではなく、行動にて示すべき。お分かりいただけましたか?(笑みを湛えている……にやにや、かもしれない。)
ロザーリオ : クソ、先を越されたな……テーブルマナーには自信がない、そっちは譲ります。仕方ないな
ダミアン : 貴方にも教えて差し上げましょうか。
ダミアン : (珍しくイニチアチブを取れたのが嬉しいらしい。調子に乗っている)
ロザーリオ : 教えられた所で食えませんよ?
ダミアン : あっ。
ダミアン : …………反省し、改善します……。
ロザーリオ : 酷いな、食えないのは知っている癖に……フフ……
ダミアン : うぅ……。と、ともあれ! 友人である私からは、こう忠言しておきましょう。いいですね?
ロザーリオ : まあ、良いでしょう。玩具にされたような気もしますが
ダミアン : じゃれあいです。友人とはこういうものでしょう。
ダミアン : (やたらと友人を押してくる。)
ロザーリオ : 喧嘩で手酷く負かしてやった時からすれば随分言うようになったな。
ダミアン : う……わ、私は元々これが本質であって!!
ロザーリオ : 本当ですか?
ダミアン : ほ、本当です! 私は貴方と違って不器用なんですから!
ロザーリオ : そこを誇るんです?器用になりましたとでも言えばいいのに。
ダミアン : …………せ、成長しましたぁ……。
ロザーリオ : フフ、合格点をやろうかな。なんて
ダミアン : ……う。ま、まあ! 及第点は取れたかと自負しております。”世間話”にもね。
ロザーリオ : 一つダメなところを上げるならば
ダミアン : んぇ。
ロザーリオ : 世間話しましょう!は妙では?
ダミアン : …………。
ダミアン : 宣言しなければ次の行動が読めないではないですかぁあっ!!
ロザーリオ : そういえばあの話なんですが、くらいのノリで話しかければよろしいでしょう
ダミアン : びっくりしません? しない? あ、そう……。
ロザーリオ : しませんよ。
ダミアン : わ、私も、でも。ちょっとは……親交を深めるのが、得意になったかと思います。
ダミアン : 当時、あの喧嘩に意義はあったのかと悩んだものですが。存外、意味は生まれるものですね。
ロザーリオ : フフ、私も少しはあの後悩みましたよ。なので、思っているよりずっと大きな転機だったかと。
ダミアン : そうですか。あの時私は貴方に一つの打点も与えられなかったけれど。貴方にも、少しでも跡がつけられたのなら。
ダミアン : ……私も、少しはやるものですね?
ロザーリオ : 膝を突かずとも泥はかかるものかと思いましたよ。ええ。
ダミアン : うっ。
ダミアン : ……ごほん! 少し、話し過ぎてしまいましたね。(思いっきり話題を変えてきた。)
ロザーリオ : ええ、提案からそれなりに長く。
ダミアン : そろそろ解散といたしましょう。……よい一日を、ロサ。
ロザーリオ : フフ、それではまた(席を立って手を軽く振った)
ダミアン : (ぺこりと会釈して、それから。控えめに手を振った。)